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東京地方裁判所 平成元年(ワ)2309号 判決

原告

日産火災海上保険株式会社

被告

中川忠一

主文

一  原告の請求を棄却する

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二二五万円及びこれに対する平成元年三月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年九月一日午後八時四〇分頃

(二) 場所 神奈川県横須賀市鴨居四丁目一一二八番地先路上

(三) 態様 小池昌敏(以下「小池」という。)が自動二輪車(以下「小池車」という。)を運転し、前記場所で右折転回しようとしたところ、右後方から進行してきた被告運転の自動二輪車(以下「被告車」という。)と衝突した。

2  責任原因

被告は、前方不注視の過失により本件事故を惹起したものである。

3  小池の損害

(一) 小池は、本件事故により、右下腿開放粉砕骨折、右足関節脱臼骨折、右下腿骨骨髄炎(皮膚・筋肉真菌症)、右下腿皮膚・筋肉壊死の傷害を受け、この結果、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表の五級に相当する後遺障害が残つた。

(二) 小池の前記受傷による損害額は、治療費九六万五四〇七円、入院雑費三一万九八〇〇円、後遺障害による逸失利益二九一一万五八九三円、入通院慰藉料三〇〇万円、後遺障害慰藉料五二一万円の合計三八六一万一一〇〇円である。

4  損害の填補

小池は、本件事故につき、被告車の自動車損害賠償責任保険から一五〇三万円の支払を受けた。

5  原告の損害賠償請求権代位取得

(一) 原告は、小池との間で、昭和六〇年八月二三日、自家用自動車保険普通保険約款に基づき次のとおり損害保険契約を締結した。

保険期間 昭和六〇年八月二四日から昭和六一年八月二四日まで

被保険自動車 小池車

保険金額 対人賠償一名につき金八〇〇〇万円

右約款には、(1) 第三章無保険車傷害条項第一条第一項に、原告は無保険自動車(その自動車について適用される対人賠償保険等の保険金額又は共済金額がこの保険証券記載の保険金額に達しない場合等にその相手自動車をいう。)の所有、使用又は管理に起因して被保険自動車の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中のもの(以下「被保険者」という。)の生命が害されること又は身体が害されその直接の結果として後違障害が生じることによつて被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害について、賠償義務者がある場合に限りこの無保険車傷害条項及び一般条項に従い保険金を支払う、(2) 同第一三条に、保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合については一般条項第二三条第一項の規定を適用する、(3) 第六章一般条項第二三条第一項に、被保険者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には原告はその損害を填補した金額の限度内でかつ被保険者の権利を害さない範囲内で被保険者がその者に対して有する権利を取得する、との旨が定められている。

(二) 被告車は無保険自動車であつたため、原告は、小池に対し、前記保険契約に基づき、無保険者傷害保険金として二〇五万円を支払つた。

6  弁護士費用 二〇万円

被告が、前記損害額を任意に支払わないため、原告は原告訴訟代理人に本訴訟の提起、追行を委任することを余儀なくされた。その弁護士費用としては二〇万円相当である。

よつて、原告は、被告に対し、二二五万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年三月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実について(一)、(二)は知らない。(三)は認める。

2  同2の事実は否認する。小池車は、本件事故現場手前のトンネル内で被告車の右側を追い越し、本件事故現場直前で一旦道路の左側に寄り、急に右転回したため、被告は回避する術もなく衝突したものであり、被告に過失はない。

3  同3ないし6の事実は知らない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実について、甲第二、第一七号証及び第二〇ないし第二八号証によれば、(一)、(二)を認めることができ、(三)は当事者間に争いがない。

二  同2の事実について

前記認定の事実及び前記各証拠によれば、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場は、北東方観音崎レストハウス方面から南西方鴨居方面に通ずる市道(以下「本件道路」という。)上であり、本件道路は、歩道と車道が区別され、車道幅員は七・〇メートル、片側一車線で、アスフアルト舗装され平坦であり、本件事故当時は乾燥していた。また、本件道路は、本件事故現場付近で鴨居方面に向けやや右にカーブしているが、見通しは良く、道路照明により明るい。

2  本件道路は、最高速度が四〇キロメートル毎時に制限され、中央線の黄色表示により追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制がなされている。

3  被告は、被告車を運転して本件道路を観音崎レストハウス方面から鴨居方面に向けて、小池車に追従して、同車の約一〇メートル後方を約六〇キロメートル毎時の速度で走行していたところ、小池車が一旦減速して道路の左側に寄つた後、急に右に転回を開始したので、急制動したが間に合わず、これと衝突した。

4  小池は、小池車を運転して本件道路を被告車と同じ方向に向けて約六〇キロメートル毎時の速度で走行し、一旦減速して道路の左側に寄つた後、後方の被告車を確認したが、同車との距離が十分あるものと判断し、そのまま右に転回を開始したところ、前記のとおりこれと衝突した。

右事実によれば、被告は、小池車に追従して走行するに当たり、安全な速度で、同車との車間距離を十分に保ち、かつ、同車の動静に注意して走行すべき注意義務があるのに、これを怠り、同車の約一〇メートル後方を約六〇キロメートル毎時の速度(同速度は、前記車間距離に照らし、速すぎるものといわなければならない。)で同車の動静に十分注意しないまま走行した過失により本件事故を惹起したものであり、民法七〇九条に基づき、本件事故により小池が被つた損害を賠償する責任があるものといわなければならない。

三  請求原因3の事実について

甲第四号証の一ないし甲第一一号証によれば、小池は、本件事故により、原告主張の傷害を受け、この結果、原告主張の損害額を下らない損害を被つたことが認められる。

四  同4の事実について

小池が本件事故につき被告車の自動車損害賠償責任保険から一五〇三万円の支払を受けたことは原告の自認するところである。

五  ところで、前記事実関係によれば、小池には、右に転回するに際して、後方から被告車が進行してくるのを確認しているのであるから、同車の動静に注意し、同車と衝突しないように転回すべき注意義務があるのに、これを怠り、同車との距離が十分ではないのにこれが十分にあるものと軽信して転回を開始した過失があるものといわなければならず、原告及び小池の過失の程度にかんがみ、過失相殺として小池の前記損害額から六五パーセントを減額するのが相当である。そうすると、小池が本件事故により被つた損害額は前記三八六一万一一〇〇円の三五パーセントの一三五一万三八八五円になるところ、本件事故につき被告車の自動車損害賠償責任保険から支払を受けた前記一五〇三万円を損益相殺としてこれから控除すると、右損害はすべて填補されたことになる。

六  結論

以上の事実によれば、その余の点につき判断するまでもなく、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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